余計なことを言わないように笑顔を貼り付けていると、娘をここに呼んでくれ、と、三条さんが先程玄関で出迎えてくれた初老の執事に伝え、花蓮さんというお嬢様を呼びだした。
現れたお嬢様は高級で上品な召し物――薄い水色のパブスリーブ、首元にリボンが付いたシルク素材のワンピースに身を包み、大変美しい容姿をされていた。腰まである赤みを帯びたウェーブがかった艶やかな髪をきちんとセットし、つぶらで目が大きく、鼻もつんと小ぶりなのに上を向いていて、全体的に美しく整っていて愛らしい。
一矢を見た途端、ピンクのバラの如く頬を染め、目を潤ませた。
しかしその横にいる私の姿を見た途端、目力が増して嫉妬の炎が見える。一瞬だったが、中松に鍛えられたお陰で私はそれを見逃さなかった。
ああ…。私、完全邪魔者認定―。きつい…。
まあ、これがニセ嫁たる仕事だから。悪意一手引き受けもやむを得ないわ。頑張るしかない。
愚鈍なフリでそういう視線には気が付かないように見せ、笑っておいた。
「一矢様が久しぶりにわが家へいらっしゃったから、花蓮は嬉しゅうございます。どうか、ゆっくりしていらして下さいな」
ふわぁー。めちゃくちゃ上品!
育ちがちがーう! 私とは大ちがいざまーす。
「花蓮とは久しく会っていなかったな。すまない。会社が軌道に乗ってきたものだから忙しく、折角の夕食の誘いに応じられなくて悪かった」
「そうですわ。花蓮、一矢様が来て下さるのを、首を長くして待っておりましたのよ」
わー。私の入る隙無いー。どうしたらいいのぉー。(汗)
そんな私が困っていると思ったのだろう。一矢が花蓮さんに私を紹介してくれた。
「花蓮。こちらの女性は緑竹伊織さんだ。幼馴染で、私が妻に選んだ女性だ。是非、仲良くして欲しい。とても良い女性だから花蓮も気に入ると思う」
「まあ」花蓮さんは口元を手で覆い、私に近寄ってきた。ぎゅうっと両手を握られ、お嬢様とは思えない程の力を掌に受けた。
痛いっ! 結構怪力ね。恨みがこもっているわ。
「初めまして。三条花蓮と申します。一矢様には私が幼少期からのお付き合いで、彼のことを大変慕っております。どうぞよろしくお願いいたします。緑竹様は、どちらの財閥のお方?」
「花蓮、彼女の家柄はそういう類ではない。今は三成家で花嫁修業をしている。どうだ、とても綺麗な女